しばらく肩を震わせて、何も話せないような状態になってしまった花穂ちゃんの隣で、僕は事故現場になった場所を見つめる。

 もう、事故を思わせるものは全て撤去されていて、全く跡形はないものの、やっぱりそこを直視するのは苦しかった。

 大切な人を守りたい一心で自分が犠牲になるだなんて、そんなこと本当に自分の命の危機が迫ったときに、僕にできるのだろうか。

 兄ちゃんは、本当にすごい。

 本当に、自慢の兄ちゃんだったよ……。

 涙で差し込む夕陽がお星さまのようにキラキラして見える。

 僕は改めてこの事故現場で両手を合わせた。


「……ごめんね。ちょっと落ち着いた」


 落ち着いたとは言葉で言ってるけど、花穂ちゃんの目は真っ赤だし、鼻はズビズビいっている。

 さっきまで眩しいくらいだった夕焼けは、徐々に群青色の空へと変化している。


「ううん。じゃあ、そろそろ行く?」

「うん」


 最後にもう一度手を合わせて、僕たちは再び歩きだす。