夏の海で、僕が真実を告げようとしたところで、何かを感じとり、強い拒絶を示した末に意識を手放した花穂ちゃんを思い返す。

 つまり、あのとき持ち得なかった強さを、今の花穂ちゃんは手にしているということなのだろう。

 けれど、まだ話には続きがあるのか「本当はね」と、そのあと花穂ちゃんはさらに言葉を続ける。


「夢の中でリョウちゃんと会ったとは言ったけど、きっと私がリョウちゃんを求めていたから夢として見ただけなんだっていうのはわかってるの」

「……え?」


 夢で死んだ兄ちゃんと会えたなんて言ったから、花穂は突然恥ずかしくなったのだろうか。

 けれど、ハンカチが離れて見える花穂の瞳はさっきよりも、ずっと強い女性のもので、照れ隠しとかそういうのではないことは、はっきりと伝わってきた。


「向き合わなきゃいけない事実を、なかなか受け入れられなかった。だけど、私はどこかで受け入れなきゃ前に進めないって、わかってたんだと思う。リョウちゃんの夢は、きっとそれに気づかせるためのものだったんだって」

「花穂ちゃん……」

「わかってるけど、でも、リョウちゃんに会って言われた言葉って思う方が、頑張らなきゃって思えるでしょ?」


 いつの間に花穂ちゃんはこんなに強くなったのだろう。

 花穂ちゃん自身の努力と、やっぱり兄ちゃんのおかげなのかな。


「花穂ちゃんは、もう充分よく頑張ったと思うよ」