だけど、やっぱりこの現場を目の当たりにすると、夏祭り会場には居なかった僕でさえ、兄ちゃんのことが思い出されて、その場所から目をそらしたくなった。

 でもそれをしなかったのは、花穂ちゃんが目をそらさずに真新しいフェンスのそばまで再び歩みを進めたからだと思う。


 そこには今も、いくつもの花と干菓子が供えられていた。

 前回はここに来ても何も思い出せなかった花穂ちゃんだけど、今日は違う。


「私はずっと、私がちゃんと逃げられなかったからリョウちゃんは犠牲になったんだと思ってた。今もやっぱり、私のせいでリョウちゃんは命を落としちゃったんだって思う」


 花穂ちゃんが視線を落とすと、夕陽に反射した涙がきらりと光って見えた。

 それは、供えられた花のそばのアスファルトに音もなく染みを作る。


「それなのにリョウちゃん、私に辛い思いさせてごめんねって言ってた。そのとき、命と引き替えに助けてもらっておきながら、ああ私はまたリョウちゃんを苦しめてるんだって思ったの。だってそうでしょ? リョウちゃんの方が絶対に辛いはずなのに。だから……また、頑張らなきゃって。リョウちゃんをこれ以上苦しめないためにも、辛くても現実を受け入れて、前に進まなきゃって思ったの……」

 花穂ちゃんは肩から提げていたカバンからタオルハンカチを取り出して、目元を押さえる。