だけどそれ自体、僕が兄ちゃんと比べてしまっていることを顕著に表しているように思えて、僕はそんな自分を一掃することにしたんだ。

 だって、僕は僕でしかないのだから。僕にとって、今回髪を切ったことは、もう兄ちゃんと比べるのはやめようという決意でもあった。

 そこまでできて、初めて僕は本当の意味で兄ちゃんから自立できると思ったから。

 そう言うとかっこよく聞こえるが、記憶探しの旅の間、兄ちゃんの姿になっていたことから開けた視界に慣れてしまったせいで、本来の前髪が邪魔くさくなったというのもある。 

 きっと花穂ちゃんは世間話的に髪を切ったんだねと口にしたのだろうけど、僕はそんな理由から何となく気恥ずかしく感じて、思わず短くなった前髪を指でいじる。


「……変、かな」

「ううん。そっちの方が、明るい感じでいいと思うよ。かっこいい」

「……ありがとう」


 髪が短くなってしまったことで、熱くなる顔を隠せないのは、辛い。

 顔が無駄に赤くなってないか心配で、思わず花穂ちゃんから顔をそらしてしまった。

 だけどそのとき、花穂ちゃんが静かにつぶやくように言った。


「……私ね、全部思い出す前、リョウちゃんに会ったの」

「……え?」


 兄ちゃんに?

 兄ちゃんのフリをしていた僕じゃなくて?

 思わず彼女の方を向いた僕に、花穂ちゃんは少し恥ずかしそうに笑う。