「こちらこそ、わがまま言ってごめんね。ありがとう。リョウちゃんにもちゃんとあの夏祭りの日からのことは謝っておいたわ」

「そっか。僕もだよ、勝手に兄ちゃんのフリしてごめんって。僕のことはともかく、兄ちゃんは花穂ちゃんのことはそもそも怒ってないと思うよ」

「だといいけど」


 そんな風に笑う花穂ちゃんの顔は朗らかで、記憶を失っていた間のような、今にも壊れてしまいそうな儚さはない。

 全てを思い出した花穂ちゃんが、現実を受け入れて前に進めているということなんだと思う。


「二学期が始まるまでに記憶が戻って良かった。気をつけて帰ってね」


 そんな花穂ちゃんを見て、恐らく彼女は記憶を失うほどに自分を責め続けたが、ショックを受けた兄ちゃんの死を受け入れて、自分の中で昇華できたのだろうと思った。

 今の彼女なら、きっと空から見てる兄ちゃんも安心できるような気がした。


「あ、ショウちゃん」

「……ん?」

 僕が背を向けようとしたところで、花穂ちゃんに呼び止められる。


「このあと、時間、大丈夫?」


 親戚のみんなでの食事会は法事の始まる前の昼御飯で済ませているから、もう親戚を見送るだけだ。

 片付けといっても、自宅の八畳の和室に人数分の座布団を敷いて執り行われていただけだから、そんな大それたものじゃない。