いつまでも辛い現実から目をそらして、逃げ続けても、現実は変わらない。

 それでずっと苦しいままだったら、きっとそんな私たちを見てリョウちゃんも悲しむだろう。

 それに気づいたショウちゃんは、私より一歩前を歩いて、ずっと手を引いてくれていたんだ。


「……だから、花穂ちゃんは責任を感じないで。兄ちゃんは、そんな風に花穂ちゃんの足枷になりたかったわけじゃないと思うよ」

「……ありがとう」

「いろいろあったけど、花穂ちゃんの記憶が戻って良かった……」


 そのときだった。 

 ガラッと保健室のドアが開く音がして、ショウちゃんが私から飛び退く。


「あらっ! 梶原さん、目が覚めたのね。気分はどう?」

「あ、大丈夫です」

「どうする? お家に、連絡しようか?」


 保健の先生は心配そうな面持ちでそう聞いてくるけれど、身体自体はどこにも不具合がないし、そこまでする必要はなさそうかな……。


「いえ、大丈……」

「はい。お願いします」


 だけど私の言葉を遮るように、もうすでに湿っぽさのなくなった真っ直ぐな声でショウちゃんが告げる。

 私が驚いてショウちゃんの方を見ると、ショウちゃんはいつも私が記憶をなくしていた間、毎日のように私に向けてくれていた優しい笑みを浮かべて口を開く。