「……ショウ、ちゃん?」


 思わず私の口からこぼれたのは、小さくてかすれた声だった。

 それでも少し離れた場所にいる彼の耳には届いたようで、ピタリと彼は足をとめた。

 驚いたような表情の彼と目が合う。

 だけど、きっと私も同じ表情をしているのだろう。

 一気に記憶の波が押し寄せて、まるで走馬灯のようにこれまでの記憶がよみがえってくるのだから。

 だからやっぱり思う。

 ああ、やっぱりあなたはリョウちゃんじゃない。ショウちゃんだったんだって。


「ショウちゃん、なんだよね……?」


 ショウちゃんは回れ右をして、再び私のそばまで戻ってくる。

 同じ格好をすればリョウちゃんと瓜二つと言われるショウちゃんだったけど、よく見ると違う。

 リョウちゃんの首筋にあった小さなホクロは、ショウちゃんにはない。


「花穂?」


 ショウちゃんは、疑うような目で私を見ている。

 ここ最近、何度も見た顔だ。

 倒れて記憶がなくなる直前に私が何かを口走ったとき、ショウちゃんはいつもこんな表情で「まさか思い出した?」と聞いてくれていたのだから。

 すっかり抜け落ちてしまっていたその記憶も、今の一瞬でよみがえってきた。


「……全部、かどうかはわからないけど、ほとんど思い出したよ」