「そう言うと思った。でもさ、将太は自分のことを将太だと認識してもらえてないのに、ずっと花穂の隣にいて根気強く花穂の記憶が戻らないかと試行錯誤してくれたんだろ?」

「……うん」

「花穂は一人じゃない。少なくとも将太は、花穂を一人にしないんじゃないかな」


“花穂は一人じゃないよ”

“僕でよければ、ずっと花穂のそばにいるから”

 リョウちゃんの声に重なって、ショウちゃんの声が脳裏に再生される。

 理由もわからず自分だけ取り残されたように不安で堪らなくなったとき、どれだけその声に救われたことか。


「たまには思い出してくれたら嬉しいけど、僕を理由に希望を失わないで。死んでおいてこんなこと言うのも悪いけどさ。花穂は一人じゃないんだから、本当に辛いときは花穂がSOSを出したら、きっとみんな助けてくれるよ」

「……リョウちゃん」

「好きだよ、花穂。だから、約束。花穂はちゃんと幸せになって」

「え、リョウちゃん……?」


 一方的にリョウちゃんはそう言うと、リョウちゃんの姿はどんどん薄くなって、やがて空間に溶けるように消えてしまった。


 そんなのって、ないよ……。

 でも今の私を見て、リョウちゃんはとても悲しそうに見えた。

 それはきっと自分自身が死んでしまったということだけじゃない。