「無理に思い出さなくていい」

 うつむいていた花穂が顔をこちらへ向ける。


「花穂が辛いなら、無理することはないよ」


 みんなのことを……兄ちゃんのことを思い出してほしいとは思う。

 けど、それを花穂に求めるのは、僕たちのエゴのような気がした。

 ところが、花穂は強く首を横に振った。


「……でもね、思うの。リョウちゃんが居てくれたら大丈夫かなって」

「……え?」

「だってリョウちゃんは、私の記憶にない頃の私を知っている上で、私のそばに居てくれてるんでしょう? だから、きっとどんな過去が明るみになっても、そばに居てくれる気がするから」

「花穂ちゃん……」


 思わず、僕自身としてつぶやいてしまった。

 花穂はそのこと自体、全く気にも留めてないようだったけれど。 


「このままじゃダメだってのもわかってるから。私の両親にも悪いし、……リョウちゃんと過ごした思い出も思い出したいもん」

 ごめんね、心配かけて。と笑う花穂は、僕が思っていた以上に、ずっとずっと強い女性なんだと思う。


「だからね、お願いがあるの」

 花穂の決意を感じられる、まっすぐで力強い声だった。


「退院したら、私と記憶探しの旅をしてくれないかな」

「……え?」