一目散に走る花穂は、僕からだけでなく現実からも奥底に仕舞い込んだ過去からも逃げているようだった。

 そんな花穂を、一人になんてできない。

 こんなの、僕の勝手だってわかっているけれど。


 そのとき、ちょうど目の前に見えた校門の外から耳をつんざくようなブレーキ音が飛び込んでくる。

 直後に聞こえたのは、鈍い何かの衝突音。

 まさに連続して聞こえた、明らかにすぐそばで事故が起こったことが想定される物音だった。

 すぐ後ろから見ていても明らかなくらいに、花穂は肩をびくつかせて、その場に自分自身の身体を抱きしめるように腕を回してしゃがみこんだ。


「……花穂?」

 さっきの音を聞きつけた生徒が、何人か野次馬のように校門の外に出ていく声が遠くに聞こえる。

 花穂はその場に小さくなって、肩で息をしていた。


「花穂」

 僕の声が花穂に届いたのかどうかはわからなくて、もう一度声をかけると、それに弾かれたように花穂は顔を上げる。


「……え!? “ショウ”、ちゃん……?」

 花穂の瞳に“僕”が映る。

 だけど、その表情は驚きと悲しみに染まっていた。

 花穂が僕の名前を呼んだことに呆気に取られているうちに、僕の腕の中に花穂が寄りかかってくる。


 ……寝てる。

 僕は眠る彼女の頬に伝う涙を指でそっと拭った。

 僕たちを追って来てくれたのだろう。

 すぐ背後からもうひとつの足音が聞こえて振り返ると、園田先輩がこちらに駆けてきていた。