「わからないの……。だけど、時々何だかリョウちゃんが居ることが信じられなくて、リョウちゃんがリョウちゃんじゃないような気がして……。自分でも、何を言っているのかわからないんだけど、すごく不安で、怖くて……」

「花穂……」

「やっぱり、変よね、私……。これじゃあリョウちゃんのこと、信じてないみたいで。ビデオでももしもとか言ってたけど、リョウちゃんが居なくなるわけないのにね、リョウちゃんが……」


 花穂自身、気づいているのかはわからない。けど、矢継ぎ早にそう告げる花穂の言葉は、まるで彼女の心の奥底に眠っている悲鳴を聞いているみたいだった。


「……違うんだ、花穂」

 そんな花穂を見ていられなくて、僕は思わず声を張り上げた。


「何が、違うの……? もう、いやだよ。苦しいよ、私……」

 花穂はそのまま頭を横にふって、僕に背を向けて駆け出した。


「花穂……っ! 先輩、すみません、僕、追いかけます。ありがとうございました」

 走り出すのと同時に先輩たちにそう告げると、僕はそのまま視聴覚室の外に飛び出す花穂の背中を、必死で追いかけた。


 一階の視聴覚室を出て廊下を走り、そのまま校舎の外へと出る。

 花穂の足はそれほど速くない。しかし、自慢じゃないけど、僕も足に自信があるわけじゃない。

 追い付けそうで、追い付けない。情けないことに。