自分で言って恥ずかしくなったのか、「な、何でもない」と焦ったように膝を抱えて座る花穂は、膝に顔をつけるようにして顔を伏せてしまった。


「そっか……」

 花穂が望むその相手は、僕じゃない。

 僕なら、花穂が望む以上に花穂のことを愛せる自信があるのに。そばにいることだってできるのに。

 僕じゃない。

 花穂のそばに居たくても居られなかった兄ちゃんに、ほんの少し嫉妬した。


「何、そっかって……。他人事みたいに」

「あ、いや、そういうわけじゃないんだけど……」


 しまった。つい、何となくショックで、そこまで頭が回ってなかったけど、今僕は花穂にとっては兄ちゃんなんだから、あんな淡白な返しをしたら、花穂が怒って当然だ。

 花穂は不安そうに僕を見つめている。

 不安そう、というより、不安なのだろう。

 記憶が戻らないことも、花穂自身兄ちゃんに対して罪悪感を抱えているみたいだし。


 それに、僕は──。

「……僕自身は、花穂のことをあの映画の主人公以上に愛せる自信あるよ」

 こんなこと言ったって、花穂には兄ちゃんの言葉として伝わってしまうのに。

 そうなったら、本当のことを知ったとき、花穂はもっと傷つくかもしれないのに。

 わかっていても伝えてしまった、僕自身の紛れもない本心を。


「……嬉しい」

 花穂が僕の懐に抱きついてくる。