「うん、今日のために借りてきたの。たまにはリョウちゃんとのんびり過ごしたいなと思って」

 記憶をなくしてもなお、その映画を観たいと言ってくるあたり、やっぱり花穂は花穂なんだなと思わず苦笑する。


「あ、もしかしてこういうの苦手だった?」

「ううん。いいよ、観よ」


 それなら、今度は怒らせないように楽しい時間を過ごしたい。

 DVDを再生すると、花穂はたちまち映画に夢中になっていく。

 僕は話半分で、残りの半分は花穂のことが気になって仕方がなかった。


 花穂の誕生日に、花穂の部屋で二人で映画を観る。

 束の間の恋人気分を味わっているような気さえした。

 ごめん、兄ちゃん。やっぱり僕、花穂のこと好きだ……。

 本来なら兄ちゃんの居るべき位置で、束の間の幸せを味わっているみたいで罪悪感のような気持ちも芽生えたが、今だけと必死で自分に言い聞かせた。


 そうしているうちに、物語はだんだん不穏な空気をまとい、隣で鼻をすすり出す花穂に内心あたふたしてしまったのは言うまでもない。

 映画が終わっても、まだ泣いている花穂。

 すでに再生が終わったテレビ画面には、夕方のバラエティーが流れている。


「……どうだった?」

「う~、すごく良かった。私もあんな風に愛されたいなって……」