「辛いなら辛いって言って。それで泣きたくなったら一緒に思いっきり泣こう。いつかきっと、また心から笑える日が来るから。一人で乗り越えるのが辛いなら、一緒に乗り越えよう」


 兄ちゃんの代わりはやっぱりなれそうにないけれど、僕なら花穂が望む限りずっとそばにいるから。

 まぁ、本当のことを知ったら、花穂は僕から離れていってしまうかもしれないけれど。


「花穂は、一人じゃないから」

 しばらく背中を撫でていたら、だんだんと花穂の身体から強ばった感じが消えていく。


「……ありがとう」

 そして花穂は少し僕から身を離して、少しはにかんで言った。

 その顔から、さっきまでの切羽詰まったような様子は消えている。


 今回も前回と同じ方法で花穂が意識を失ってしまうのを食い止めることができた。

 やっぱり花穂は、少なからず一人で辛い過去を受け留める勇気がないということなのだろうか。


 それからは落ち着きを取り戻した花穂と再びケーキを食べる。

 その間、まるでさっきまでのが嘘のように、花穂が僕の利き手について口にすることはなかった。

 みんなでケーキを食べ終えたあと、僕は花穂の部屋に通された。

 今日の花穂へのバースデープレゼントは兄ちゃんの趣味ではなく、“僕”が贈りたいと思ったものを選ぶことにした。