瞬間、花穂が突然両手で頭を抱えた。

 カランと床にフォークが転がる。


「花穂っ。大丈夫!?」

 花穂のお母さんが慌てたように花穂の顔を覗き込む。


「……頭が」

 お母さんは僕から話は聞いているものの、恐らく娘のこんな場面に直面するのは初めてだったのだろう。

 血色の良かった顔は、どんどん血の気が引いて青みを帯びていく。


「おばさん、ちょっと代わってもらっていいですか?」


 花穂の肩に両手を乗せて困惑している花穂のお母さんには申し訳ないけど、花穂の隣を代わってもらった。

 この前試した方法がまた使えれば、このあと起こり得る花穂の記憶消失を防げるはずだ。


「花穂……」

 僕は、今にも壊れそうな花穂を包み込むように抱きしめる。


「花穂は、一人じゃないよ」

「リョウちゃ……」

「また不安になった?」

「……うん」


 花穂の震える両手が僕の背をつかむ。


「花穂が何を思い出しても、花穂は一人じゃないから。だから、一人で抱え込まなくていいんだよ」


 花穂を落ち着かせるように背中を撫でる。

 僕の言ってることは、花穂にとって的外れでないことを祈って。