しかし花穂が僕の方を見たとき、何の前触れもなく突然不審なものを見たかのように首をかしげたのだ。


「……リョウちゃんって、右手使えたっけ?」

「えっ? あ……うん」


 花穂の視線を受けて身体が強ばる僕と同じように、花穂の隣に座っていたおばさんの表情も少し強ばっていた。

 僕は右利きだ。むしろ、利き手でない左は使い物にならないので、右手を使っているのは当然で、そこに嘘はない。

 それなのに、そこを疑問視した花穂。理由は明確だ。兄ちゃんは左利きだったからだ。

 右に矯正されることなく育った兄ちゃんは、僕が右しか使えないのと同じように左しか使えなかった。

 さすがに右しか使えなかった僕が、兄ちゃんのフリをするからといって左を利き手のように使うことができるはずもなく、ずっと花穂の隣では右手で何でもしてきた。


 今まで僕が右を使っていることに対して何ら疑問視してこなかった花穂が、突然兄ちゃんの姿の僕が右でフォークを使っていることに対して違和感を覚えた。

 それの意味することは恐らく、花穂は少しずつ兄ちゃんの記憶が出てくるようになっているということだろうか。

 その前のスマホの色のときもそうだったのだから、この憶測は間違ってないように思う。


「……えっ、でも確かリョウちゃんって」