病院までは、自転車で十五分といったところだろうか。

 決して近くはないけれど、自力で行くことのできる距離だ。


 セミが大合唱を奏でる並木道を通り過ぎて、花穂の入院する病院にたどり着く。

 まっすぐ病室に行くと、花穂は僕の姿を見るなりにぱぁと可愛らしい笑みを浮かべた。


「リョウちゃん、いらっしゃい」

「ああ。あ、無理に座らなくていいよ」


 二週間も寝たきりだったこともあり、花穂は最初は自力で起き上がることが難しかった。

 リハビリの成果もあって、手でベッドの柵に手をかけて何とか自力で花穂が身体を起こす。

 僕はそんな花穂の背中をそっと支えた。


「ありがとう。せっかく目が覚めたのに、なかなか思うように動けなくて、嫌になっちゃう」

「そりゃあ二週間もベッドの上で横になってたんだから、仕方ないよ。でも最初よりずっと動けるようになったじゃん」

「うん……。とりあえず明後日の退院までにはもっと動けるようにならないと」


 最初こそ花穂の態度は僕に対して戸惑いがちだった。だが、それが嘘のように花穂とはすぐに打ち解けるようになった。

 僕(この場合は兄ちゃんのことなのだが)の存在をおぼろ気に覚えていることもあってなのだろう。

 これまで柏木将太として接していたときは、ひとつ年上の花穂ちゃんに甘えていたところがあった。


 だけど、柏木涼太は花穂と同い歳で彼氏なんだ。

 なるべく兄ちゃんなら何て言いそうか考えながら言葉を選ぶのは、ちょっと頭を使う。