彼女の誕生日パーティーを今年も同じように行うことができたのは、花穂のお母さんのおかげでもある。

 花穂は、去年までの自分の誕生日をどのように過ごしていたか、きっと忘れてしまっている。

 だからそれを再現することで、また花穂の記憶が刺激されるんじゃないかと、花穂が僕とも誕生日を過ごしたいと言ってくれたあとで、花穂のお母さんと話した結果だ。 


 水族館のときといい、海辺といい、つい先日高校に出たときといい、短期間に何度も意識を失っては短期的な記憶をなくしてしまう。

 そんな花穂に、園田先輩の言うように積極的に過去を伝えていくことには抵抗がある。


 だけど夏休みも残る日数が少なくなり、花穂自身に焦る気持ちがあるのも確かだ。

 だからというわけじゃないけれど、またこうやって再現することで花穂の中に眠る記憶に何らかの刺激を与えられたらいいのだが。


「お誕生日おめでとう、花穂」

「ありがとう! どうぞ上がって」


 花穂は僕のことを玄関に通すと、リビングへと丁寧に案内してくれる。

 今日は平日のため、花穂のお父さんは仕事でいないようだ。


「好きなところに座っていいよ」


 テーブル席のうちのひとつに腰を降ろすと、僕は誰も座らない予定の空席に思わず視線を落としてしまった。

 いつもはこの輪の中にいた兄ちゃんがいないことを、思い知らされているようだったからだ。