結局、花穂には本当のことは告げられなかった。

 本当なら、海辺で花穂が彼女自身の気持ちを伝えてくれたときに、僕の正体も、兄ちゃんのことも伝えるべきだった。……伝える、はずだった。

 あの瞬間。何かを感じ取った花穂は、それを強く拒絶して、また記憶を失った。

 こういうことが重なると、本当は花穂は全部わかってるんじゃないかと思ってしまう。

 水族館のときも、“あなたは、本当にリョウちゃん……?”だなんて、まるで僕の正体に気づいているとでも言わんばかりの意味深な言葉を残して、花穂は意識を手放したのだから。

 彼女が何を思ってそう言ったかなんて、次に目覚めたときにはあのときの記憶がごっそり抜け落ちていた花穂にも、わからない。


 そんな中、花穂は、僕たちの交換日記を見つけたと、学校で将太の話を持ちかけて来た。

 そのときの花穂を見た感じでも、きっと花穂は何かしら僕自身について感じていることがあるのだろうと思う。

 学校でも取り乱して、花穂はまた意識を手放してしまうかのように見えた。

 しかし、それは花穂に寄り添うことで回避できたのだ。

 きっとこれも、花穂の心の問題なのだろう。

  

 だから僕は、本当のことを知るタイミングを花穂に委ねることにしたんだ。

 花穂のことを気遣うようなことを言っておきながら、本当は怖かった。