「ううん、謝るのは僕の方だよ。ごめん……」


 リョウちゃんが謝ることなんて、何もない。

 リョウちゃんは、こんな臆病で弱い私にも懲りることなく、貴重な夏休みを全て私のために費やしてくれている。

 それなのにリョウちゃんは時々、こんな風にまるで不用意に人を傷つけてしまったあとのような、罪悪感と後ろめたさを表したような表情をしている。

 だけど、やっぱりそのことについては聞いてはいけないような気がして、しばらく私たちの間には沈黙が流れた。


「……そういやさ、明後日、どうする?」

 長いこと流れていた静寂な空気を破ったのは、リョウちゃんだった。


「明後日?」


 私が何か思い出すきっかけがないか、毎日のように出歩いてくれるリョウちゃんだけど、いつもいつも行き先を事細かに決めているわけではない。

 猛暑が続いていることから、リョウちゃんは私の身体を気遣って、夕方の比較的暑さが緩やかになる時間帯に数時間ほど出るだけの日も多い。

 確か、明後日は特に予定は立てていなかったような気がする。

 私が内心はてなマークを浮かべていると、リョウちゃんは優しい笑みを浮かべる。


「明後日は、花穂の誕生日だから」

「……あっ」

 記憶をなくしていても、誕生日自体は覚えていた。