「……わかった。でも、何でリョウちゃんは私は思い出せないだけで本当は記憶がなくなってるわけじゃないと思うの?」

 リョウちゃんは悩む素振りを見せたけど、少しの間をおいて口を開く。


「……時々、花穂自身が思い出してたから」

「私が?」

 いつ?

 私の心の声がリョウちゃんに聞こえたのか、リョウちゃんは困ったように笑った。


「花穂が突然眠ってしまう前とか」


 心当たりがなかったわけではない。

 意識が途切れてしまう度に消えていた記憶。

 その空白の時間に何があったのか怖くて聞けなかったし、リョウちゃんも大して何も言ってなかったけど……、そういうことだったんだ。

 だけど、まさか私の消えた時間の中で、そんな大事なことを思い出していたかもしれないだなんて思わなかった。

 それだけでも、私が思い出せない記憶は、自分にとって受け入れがたい事柄を含んでいるということは、容易に想像ついた。


「……ごめんね」

 弱くて、無力で。

 リョウちゃんは全て知っていて、だけど私のことを気遣って黙っていてくれたんだ。

 リョウちゃんだけじゃない、お母さんやお父さんも。

 それを知るのはとても怖いことだけど、知らなきゃいけないと思う。知りたいと思う。

 強くならなきゃ、一日も早く。