だけど、私の中で燻っている不安は、こんなことではないような気がするんだ。


「それにね、花穂は思い出せないだけで、本当は忘れてなんていないと思うよ」

「……え?」

「花穂が全てを受け入れることはものすごく辛いことだと思うけど、花穂は一人じゃないから。だから、そこは不安に思わなくていいから」

「リョウちゃん……?」


 一瞬だけ、リョウちゃんの目元から透明な雫が伝った気がした。

 次の瞬間にはリョウちゃんに抱きしめられてしまったから、リョウちゃんが泣いていたのかどうかはわからないままだったけれど。


「だから、何を聞いても大丈夫だと思えるようになったら、言って。そのときは、ちゃんと全部話すから」

 全部……?


「花穂が知りたいと思っていること、全部」


 お母さんも、お父さんも、お医者さんも、もちろんリョウちゃんも、私の忘れてしまった過去については、あまり深く話すことはなかった。

 私自身も自分で思い出そうとしていたところがあったから、あまりしつこく過去のことを聞かなかったというのもあるのかもしれない。

 けれど、誰一人として口にしてこなかったことを、初めてリョウちゃんは言ってくれた。

 それなのに、私にはすぐにそれを聞く勇気は持てない。

 何だかすごく、辛いことが待っているような気がしたから。