ショルダーバッグを肩にかけるリョウちゃんのTシャツの裾を、思わずちょんとつかむ。


「どうしたの?」

 リョウちゃんはこちらを向いて不思議そうに首をかしげる。

 ああ、やっぱりいつもの優しいリョウちゃんだ。


「あのね、もしまだ時間大丈夫なら、一緒に見てほしいものがあるんだけど……」

「花穂、もう夜も遅いんだから、また明日にしてもらったら?」

「ちょっとだけだから……!」


 いくら本当のお母さんのように思えるようになったとはいえ、記憶をなくしてからはやっぱり少し他人行儀なところはあった。

 だから、こんな風にお母さんの助言に反発したのは、記憶をなくしてから初めてだった。

 面食らうお母さんと私を、リョウちゃんは少し困ったように見る。


「えっ、と。じゃあ少しだけそれを見てから帰ろうかな。すぐ帰るようにするので、大丈夫ですか?」

 結局、リョウちゃんを困らせてしまった。


「ええ。ごめんなさいね、無理言って」

「いえ、大丈夫です。見てほしいものって、何?」

「あ、うん。私の部屋に来てもらってもいいかな……」


 何となくリョウちゃんに申し訳なく思いながらも、見てほしいものがあると言った以上、私はここぞとばかりにリョウちゃんを自分の部屋に案内した。