「ごちそうさまでした。何だか突然おしかけてすみません。でもすごく美味しかったです」

 リョウちゃんはお母さんに勧められて、カレーを二杯食べた。


「あら、それなら良かったわ。今日のカレーはね、花穂と作ったのよ」

「え? そうだったの?」

 リョウちゃんは少し驚いた顔で私を見る。

 自分も一緒に作っていたことはリョウちゃんには内緒にしていたから、何だかイタズラがばれたような気持ちになる。

 私がうなずくと、リョウちゃんは優しい笑みを浮かべる。


「そっか。すごく美味しかったよ」

「……ありがとう」


 そんな一言でさえ、ドキドキしてやまない胸の高鳴りを感じて、記憶をなくしていても私は本当にリョウちゃんのことを好きになったんだなと感じる。


 リョウちゃんは、このあとすぐに帰っちゃうのかな。

 目の前のリョウちゃんはお母さんに今日のお礼を言って、椅子の横に置いてあったショルダーバッグを手に取る。

 夜も結構遅いし、元々突然夕食に誘ったのだから、むしろ当然だ。

 まだそばにいてほしいだなんて、完全なわがままだ。

 だけど、リョウちゃんが居なくなってしまうんじゃないかっていう根拠のない不安が、隙があれば私の中を埋め尽くしていくんだ。


「……リョウちゃん」