記憶をなくして目覚めたとき、最初こそぎこちなかったけれど、今では記憶がなくてもお母さんのことをちゃんとお母さんと思えるようになった。

 ちなみに、お父さんは今夜は少し残業で遅くなると連絡があったそうだ。


「リョウちゃん、良いって言ってもらえたよ?」

 外で空を仰いでいたリョウちゃんにそう告げる。


「え、本当に? じゃあ、お邪魔、します……」


 リョウちゃんは何となくばつが悪そうに笑うと、ぎこちなくそう言った。

 もしかして、緊張してるのかな。

 とはいえ、リョウちゃんの話では私とリョウちゃんは幼い頃からの付き合いで、もちろん家族同士の交流もあったそうだから、そんなに緊張することはないと思うのだが。


 リビングに入ると、リョウちゃんは嘘のようにお母さんと会話を弾ませていた。

 最近の私のことはいつも見てるのに、家での私はどうかとか話している。

 お母さんも、リョウちゃんと一緒に居るときの私はどうだとか聞いている。

 言葉にはしないけど、二人ともに、いまだに私の記憶がひとつも戻らないことを心配させてしまっているのかもしれない。

 一緒に夕飯を食べてもらうことになって、もっとリョウちゃんと話す時間が増えると思っていたのに、目の前の二人で会話を弾ませるばかりで、何となくお母さん相手に嫉妬してしまいそうになる。