あれ……?

 目を開けると、星が煌めく夜空が見えた。

 聞こえるのは、波の音色。礒の香り。

 私は、一体……?


「目、覚めた?」

 すぐそばから聞こえた優しい声の方へ視線を動かす。すると、心なしかホッとしたようにまゆを下げるリョウちゃんの姿が、目に映る。


「ご、ごめんなさい……。私……っ」


 せっかくリョウちゃんに連れてきてもらったのに、いつの間に寝ていたのだろう?

 慌てて上体を起こそうとする私を、リョウちゃんが制する。


「いいよ。いっぱい水遊びして疲れたんだろうし」

「水遊び……?」


 今日は、リョウちゃんと海を見に来ていた。

 私が記憶を失う前に、リョウちゃんと私はここにデートで来たらしいから。

 何かを思い出すどころか、リョウちゃんの言う水遊びをしたことさえ上手く思い出せない。

 最近、いつもじゃないけれど、こういうことがある。

 この前の水族館のときもそうだった。

 どちらも昔、リョウちゃんとデートで来ていた場所というだけあって、もしかしたら何か大切なことを思い出せていたかもしれないのに、いざ終わってみたら何も覚えてないのだ。