やっぱり、花穂は何かを思い出しているのだろうか?


「ねぇ、花穂。もしかして、何か思い出したの?」

 だけどそうだとして、またここで意識を失ってしまえば、今の出来事は花穂にとってなかったことにされてしまうのだろうか。

 花穂に語りかけるようにたずねると、それまで苦しげに細められていた目が見開かれて、僕を捉える。

 やっぱり、そうなのか……?

 花穂の瞳は酷く不安げで、まるでこの世の終わりを見ているようだった。


「……わからないの」

 だけど、花穂が僅かに唇を動かすと同時に聞こえたのは、今にも波の音に呑まれてしまいそうな震える声だった。


「……え?」

 わからない……?


「だけどすごく辛いの、この先を聞くのが。聞いちゃダメって……」

「それって……」

「ねぇ、リョウちゃんは居なくならないよね?」


 天文学部の合宿の夜に聞いたのと同じ質問だった。

 花穂のことを安心させたいけれど、中途半端な優しさは花穂をもっと傷つけるのかもしれないと気づいたから、今回は花穂の望むこたえを返すことができない。


「花穂、聞いて! 兄ちゃんは……」

 必死で訴えるように叫ぶ。

 だけど、僕が全てを伝えようとしたとき。


「──……柏木涼太は、もう」