僕はそんな花穂を前に、込み上げる衝動を抑えられなかった。

 ごめん、花穂……。

 ごめん、兄ちゃん……。

 僕は、花穂を力ずくで抱きしめた。

 こんな風に本能のままに花穂を抱きしめるなんて、さすがに兄ちゃんに悪いし、ダメだってわかってる。

 だけど、抑えられなかったんだ。

 僕の態度に、僕の腕の中で花穂の緊張がほぐれていったのがわかった。

 次第に、花穂の両手が僕の背に回る。

 もぞもぞと僕の中で動く花穂に促されるように下を向くと、花穂が物欲しげな瞳で僕を見つめているのがわかった。

 花穂が言いたいことは、言葉にしなくてもわかる。

 思わず少し開いた唇に視線が降りてしまうが、僕はまた理性の糸が切れてしまう前に、花穂の両肩に手を置いて彼女と距離を取った。


「……えっ?」

 花穂の顔は、困惑したような、不安げな表情に変わる。


 違う、違うんだ。

 僕は花穂を拒んでいるわけじゃない。

 だけどそれ以上に、僕には伝えなければならないことがある。

 取り返しがつかなくなる前に……。


「ごめん、花穂。聞いて」

「どうしたの? リョウちゃん。やっぱり記憶がなくなったままじゃダメかな……?」

「違う! そうじゃないんだ!」

 思わず大きな声が出て、花穂が肩を震わせる。