「私の目が覚めたときから、ずっとそばで優しく励ましてくれるリョウちゃんのことが、大好きだよ」

 言って、花穂は「きゃっ」と悲鳴を上げながら顔を隠してしまった。


 そんなことって……。

 だって、目が覚めてからずっとそばで優しく励ましてくれたリョウちゃんって……、つまりは僕だ。

 こんなの拡大解釈かもしれないけれど、花穂は僕のことを……“兄ちゃんのフリをした僕”のことを好きになってくれたということだ。

 なんで……。

 嬉しいけど辛い。辛いけど嬉しい。そして、悔しい。


「だからね、もしリョウちゃんがよければまた恋人のような関係になりたいです」


 なんで、僕は兄ちゃんじゃないんだ。

 どうして、僕は兄ちゃんのフリなんてしたんだ。

 どうして、僕自身じゃなく、兄ちゃんのフリをした僕なんだ。

 そんなのわかりきっているのに、言っても仕方ないことばかりが頭を過る。


「……やっぱり、記憶が戻ってないとダメかな?」


 花穂は、不安そうに視線を落とす。

 そんな彼女の姿が、涙でにじんで見える。

 こんなところで僕が泣いたら、カッコ悪い上に不自然過ぎるのはわかっている。

 唇を噛んで身体の内側に力を入れて何とか涙をこらえる僕の手を、花穂が両手で触れる。

 細くて繊細な二つの手は、やっぱり不安そうに震えていた。