兄ちゃんの死が辛くて記憶をなくしてしまうくらいに。また、記憶をなくしてしまっても、兄ちゃんという存在だけは消しきれなかったくらいには、花穂は兄ちゃんが好きだったはずだ。


「……知ってるよ」

 わかりきっていることなのに、胸がチクリと痛んだ。

 花穂は照れ臭そうに笑うと、小さく首を横にふった。


「リョウちゃんは記憶をなくす前の私のことを言ってるんでしょ? そうじゃなくてね、記憶をなくしてしまっても、私はリョウちゃんのことが好きだよって言ってるの」

 単純に、一緒に過ごすうちにもともと花穂が持ってた兄ちゃんに対する気持ちが戻ってきたのだろうと思ってたけど、違うということなのだろうか。

 花穂の言わんとしていることがわからなくて、何も返せない僕を見て花穂は困ったようにまゆを下げる。


「最初、リョウちゃんと付き合ってたって聞いたとき、びっくりしたのと同時に申し訳なかった。また私はリョウちゃんのことをちゃんと好きになれるのかなって。私の記憶を取り戻すために一緒に頑張ってくれてるのに、悲しませる結果になってしまわないかなって……」

 まさか、と思った。

 何となくその先の言葉に、変な期待が生まれてしまう。


「でもね、全然思い出せないけど、私はそれでもリョウちゃんと過ごすうちに、リョウちゃんのことが好きになってたって言いたいの」

「それって……」