物憂げなこの光景は、どうしてだかいつもよりも素直になれる気がする。

 だからこそ、余計に僕は自分自身に対する罪悪感にかられた。

“いつまでも涼太のフリをし続けるのはあまりに非現実的だ”

 本当に、その通り過ぎて。

 現に、僕と花穂は同じ高校に通っている以上、夏休みが終われば必然的に涼太は花穂と同じ学年だということに矛盾が生じる。

 そうなってくれば、一度生じた綻びがどんどん広がっていくのは目に見えている。


「……あのさ」

「リョウちゃん」


 僕が喉から声を絞り出したのと、花穂の声が聞こえたのは、ほぼ同時だった。

 むしろ僕の声はかすれてしまったから、波の音と同化してしまっていたかもしれない。

 少なくとも花穂の耳には届いていないようだった。


「どうしたの?」

 だからつい、僕は花穂の話を優先してしまった。

 花穂の瞳を見ると、夕陽のせいなのか若干潤んで見える。

 心なしか緊張しているように感じるのは、気のせいだろうか。


「私ね……」

 頬を朱色に染めた花穂は、少し不安そうに僕を見ると一気に言葉を紡いだ。


「私、リョウちゃんのことが好き」

 そんなこと、わかりきっている。

 花穂が兄ちゃんのことが好きなことなんて。