波まであと数メートルのところで僕たちは靴を脱いで、素足で海水の中に足を踏み入れる。


「気持ちいいっ!」

 スカートの裾を太ももの中程まで捲り上げて結んだ状態で、足首が隠れるくらいまで海の中に入った花穂が、こちらに笑顔を向ける。


「そうだな。足元、滑りやすくなってるから、気をつけて」

「はーい。前回は泳がなかったって聞いたから持ってこなかったけど、水着も持ってくればよかったな」


 前回は花穂が真冬の冷たい海に近づいたときに滑って転びそうになったらしい。だから注意を促したが、花穂の胸に届いているかは怪しい。

 念のため、僕たちは各々着替えは一式持ってきているけれど。

 結局、今回は花穂が滑って転びそうになることも転ぶこともなかった。しかし、軽く水しぶきを上げてふざけ合って、びしょ濡れとまではいかなくてもお互いに服がしっとりする程度にはなってしまった。


「そろそろ一旦上がるか?」


 陽がかなり西に傾いて、オレンジ色になる。

 兄ちゃんの日記によれば、日没は砂浜に座って二人で見たと書いてあった。

 だから、僕は花穂に声をかけて砂浜の方へ戻ることにした。


「楽しかったね」

「そうだな」

 持ってきていたレジャーシートを敷いて、腰を下ろす。

 そこからは、水平線に沈もうとする太陽が見えている。