「不可能だろ? 辛いことを隠して目を背けるのは梶原さんにとっては楽かもしれないけど、いつかは必ず向き合わないといけない日が来る。そう思えば、下手に涼太がいると思い込ませるのってどうだろう?」

「……」


 何が正しくて、どうするべきなのか。

 何をすることが花穂のためになるのか。

 園田先輩の言葉に反論できるほどの考えを、僕は持ち合わせていない。

 でももしも、今僕がしていることが何一つ花穂のためになってないのならと考えたら、恐ろしくなった。

 僕がこの夏休みをかけてやって来たことが、全て間違っていたということなのだろうか。

 ドクドクと、今までにないくらいに血流の音が大きく聞こえて、耳に障る。

 寒いくらいに冷房のきいた喫茶店内だというのに、背中に冷や汗が浮かぶ。

 僕は、とんでもないことを花穂にしてしまったのではないだろうか。僕がやってきたことが正しいと胸を張って言えればいいのに、自分に問いかけて不安になる。


 アイスコーヒーの氷がカランと揺れたとき、トンと僕の肩に温かい手が置かれた。

 いつの間にか下に落としてしまっていた視線を上げると、心配そうな面持ちの園田先輩がこちらを見ていた。


「ごめん。将太の気持ちも考えずに言い過ぎた」

「いえ……」


 それだけ助言してくれるということは、園田先輩も真剣に花穂のことを考えてくれているっていうこと。

 むしろ、ありがたいことだ。