黄色いカーテンの傍で荷物を整理していた花穂ちゃんのお母さんは、雰囲気の変わった僕を見て驚きはしていたものの、止めようとはしなかった。

 僕は「花穂ちゃん、入るよ」と声をかけて、黄色いカーテンの向こう側に入った。


 ベッドの背を起こして、ぼんやりと座っているようだった花穂ちゃんの視線がこちらに向けられる。

 また誰? なんて言われたらどうしようと不安になる。だけど、何もしないことには始まらない。僕は勇気を出して彼女の方へ歩み出た。


 花穂ちゃんは何を言うでもなく、じっと僕の顔を見つめてくる。


「あ、僕、さっきの……」


 無言の圧力に何となく耐えられなくなり、とっさに口走ってしまった。

 だけど、それに被さるように確かに目を丸くした花穂ちゃんは言ったのだ。


「リョウ、ちゃん……?」

「え……?」

「あ。あれ……? 私、今」


 でも、確かに聞こえた。“リョウちゃん”と呼ぶ花穂ちゃんの声が。

 花穂ちゃんは、昔から兄ちゃんのことをリョウちゃんと呼んでいた。

 だからきっとそれは、兄ちゃんと同じ髪型をした僕に向けた言葉だろう。

 まさか花穂ちゃんは、兄ちゃんのことを思い出したのだろうか?