「青二才がすかしてんじゃねーさ!」

その光景を見ていた別のおじさんに思いっきり背中を叩かれた。

「そんなんじゃないから……」

加減を知らないから、律の背中はヒリヒリと痛んだ。
彼は法被を着るのが嫌だというよりも、それを着た姿を詩に見られるのが嫌なのだ。
似合わないと大笑いされるに違いない。

「そういや、詩ちゃんは今年高三だろ。進路とかどうすんだ?」
「大学にいく脳みそがあるとも思えねーけど、進学か就職かするだろ」

詩の父と仕事仲間の男性が数人で話しているのが律の耳に入る。

「どっちもダメなら結婚しちまえばいいな」

その一言に律の心臓はドキッと跳ねた。
盗み聞きなど趣味ではないがこれは無視できない。

「結婚は早いだろうよ!」

詩の父が間髪入れずにつっこむ。
これには律も心の中で激しく同意した。
この言葉には律自身も含まれているとも気付かずに。

「法律的には何の問題もないさ。農協に独身のイイのがいるから紹介してやろうか?」

仕事仲間は詩の父をからかって遊んでいる。
彼は「そんなのいらねー、いらねー」と手を振って逃げるようにその場を後にした。