律たちが暮らす村では毎年夏祭りが行われている。
夏休みが始まってしばらく経った八月初旬。
厄除け、五穀豊穣などを祈り、この村で一番大きな神社で開催される。
その祭りでの目玉はなんと言っても巫女舞だ。
村の若い少女が祈りを込めて夏の夜に舞を披露する。
ここ数年間、その大役を任されているのが詩だった。
詩の舞はこれまでにないほどの定評を呼んでいる。
そして、今夜がその夏祭りの当日。
律は例年通り祭りの準備に駆り出されていた。
少子高齢化のご時勢、若い男子は貴重でほぼ強制参加だ。
焼き鳥を焼くための機械や炭、販売用のジュースなどを次々にテントの中に運ぶ。
「荷物はこれで最後だ」
そう号令をだしたのは詩の父だった。
他にも“祭”とプリントされた青い法被(はっぴ)を着た男性たちが、律の周りを取り囲んでいる。
「りっちゃんもコレ着な!」
近所の駄菓子屋を営むおばさんに法被を勧められるが「俺はいいよ……」と律は丁重に断りをいれた。