「寝坊すけ、色気無し、おまけに成績がこれじゃ……嫁の貰い手も怪しいな」

律はわざとらしく大きな溜め息をついてみせる。
その態度に詩のイライラはついに爆発した。
椅子をガタンと後ろに倒しながら立ち上がる。

「将来は芸術家、もしくはじいちゃんの畑継いで百姓になるもの!百姓は生産性があるから偉いんだぞ!ちょっと成績が良いからって高みの見物してんなよ!
もし、日本が食糧難になっても“律だけ”助けてやんないからね!覚えてろっ!」

詩はビシッと彼を指さし、興奮気味に言い切った。
ハアハアと息を切らしている。
律はまるで他人事のように「ハイハイ」と適当にあしらった。
“律だけ”と限定するところが実に彼女らしい。
もしもの時、律以外の藤沢家の面々は助けてくれるということだ。

「また二人の痴話ゲンカが始まったぞ」
「お前たちのヤツなんて俺んちのサブローも食わねぇからやめとけって」

クラスメートたちが口々にはやしたてた。
中には指笛を拭いてくる生徒もいる。
詩がプリプリと機嫌を損ねたまま高校最後の夏休みに突入したのだった。