律の横の席には親友の太田(おおた)がいる。
詩が成績表を受け取りに向かっている間に寄ってきて律の肩をポンポンとした。

「おい、律。お前まだ平川に告ってないのかよ。もう夏休み始まるぞ?高校最後の夏休みだぞ……?」

長期休みの前になるといつもこうしたお節介を焼いてくる親友だ。

「俺の勝手だろ」

律の答えもいつも同じ。
律は物心がついた頃から詩の事がずっと好きだった。
それは今でも変わらないどころか日に日に増していくばかり。
それでも彼女に想いを伝えないのは律の事をどう思っているのか分からないからだった。

成績表を受け取った詩が自分の席に戻ってくる。
それで、この話も終わり。
成績表を見て溜め息をついている詩の背後から律が顔を覗ける。

「あちゃー……見事なカウントダウン。これはおばさんの逆鱗(げきりん)に触れるぞ」

五段階評価のスリーカウント。
美術と体育だけは毎回5評価。
詩はビクッとして「まだ1は無いから!てか、勝手に見ないでよ!」と慌てた。
そして、成績表を鞄の底にしまってしまう。