「律、お待たせ」
声をかけるが律からの返事が無い。
よく見ると、律はシャーペン片手に頬杖をついて居眠りをしていた。
律が勉強の途中で居眠りをするなんて、ものすごく珍しい。
詩はいたずら心を抑えられず、指先でチョンと彼の頭上を突いた。
まったく起きない彼に詩は少しだけムッとしたが、机の隅に置いたお守りを見てその苛立ちは一瞬にしてフッと消えてしまう。
そして、詩の柔らかな唇が律のそれに静かに触れた。
律はその感触にゆっくりと瞼(まぶた)を開ける。
目の前に突如現れた恋人に驚きを隠せず、思わず自らの唇を両手で塞いだ。
詩のしたり顔が視界いっぱいに広がった。
「律、ケーキ食べに行くよ!」
彼女は嬉しそうに述べ、先に図書室の出口に向かう。
律は「あ、あぁ……」と慌てて荷物をまとめた。
モーニングコールは俺の役目なのに――…
釈然としない律をよそに、詩は制服のスカートを揺らしながらクルッと身軽に振り返る。
「目覚めのキスを君に」
そう言って、彼女は照れ臭そうにはにかんだ。
Fin.