そしてこの日の放課後は、夏休み明け試験を受けられなかった詩の補習が入っている。

「そんな調子でまともに補習が受けられるのかよ……」

心配している律をよそに、詩は「余裕、余裕」とのんきな構えだ。

「俺、図書室で勉強しているから、終わったら来いよ」
「うん。分かった」

詩は頷いて了承する。
律は図書室へ向かい、詩は補習を行う教室へと戻って、それぞれ別れた。

彼女が妙にご機嫌なのには愛猫(あいびょう)との楽しい生活とは別にもう一つ理由がある。
補習が終わった後、二人でケーキを食べに出掛ける約束を交わしたのだ。
補習のお疲れ会と詩の退院祝いをかねて、律がごちそうすることになっていた。

彼女と正式に付き合うようになってから初めておこなうデートらしいデートかもしれない。
そう思うと、律もそれなりに楽しみだった。

律は図書室に入ると窓際の一番奥に席を取る。
テスト期間でもなんでもないこの時期の図書室はとても静かで居心地がいい。