踵(きびす)を返して鞄を手にしようとした時、詩の細い腕が律の小麦色の手首をつかんだ。

「……今度なんて嫌。もう二度とあんな後悔したくない。アタシも律が好き。
律とは高校卒業したら離れ離れになっちゃうかもだし、みんなに期待されてる律とアタシじゃ不釣り合いかもしれないけど……律が好き。大好きなの……」

詩は自分の心の奥で大きく育っていた律への想いを正直に口にする。
事故にあった瞬間、全てを後悔した。
“律の為”とか“不釣り合いだから”とか余計な事ばかり考えて彼の気持ちに応えなかった自分に。
無理に早起きなんかして、気持ちを押し殺して“律離れ”をしようとしていた馬鹿さ加減に。

「律の傍にいさせて……」

詩の涙がスーっと頬を伝った。
それを見た律は、ガラス細工を扱うように優しく彼女の身体を抱きしめる。

「今更か……」

そう応える律の声は少し震えていた。
伝えたい気持ちが溢れ、それを上手く言葉にできなくて、律は言葉の代わりに彼女の額に触れるだけの口付けを落としたのだった。