医師による診察が終わるまでの間、律と詩の母は病室の隅でその光景を見守る他無かった。
心配そうな眼差しを向ける彼女に、医師が穏やかな表情を浮かべる。

「娘さん、もう心配ありませんよ。後は傷の治療と体力作りを頑張りましょう」

その言葉を聞いた瞬間、詩の母は安堵(あんど)と喜びが一気に吹き出したような涙を流した。
「ありがとうございます……」と何度も何度も医師に向かって頭を下げる彼女に、律はポケットから取り出したハンカチを差し出す。

「りっちゃんもありがとうね……」

詩の母はそのハンカチを受け取って、とめどなく溢れ出す涙を拭う。

「おばさん、詩のところへ行こう」

彼女の頼りない肩を支えながら、律は詩が横になるベッドの傍へゆっくりと近づいた。
幾日ぶりかになる幼なじみのビー玉のような綺麗な瞳が目にとまる。
その姿を見て律の目頭も熱くなったが、目覚めたばかりの幼なじみにかっこ悪いところを見られたくなくて必死に堪えていた。