できるだけ、彼女が焦ったり、興味があったりして、とにかく“起きよう”と思う内容を選んで。
一ヶ月間、そうやって声を掛け続けたが応えたことは一度も無い。
人の気も知らないで、澄ました顔をして眠っている幼なじみ。
無視をされているようでほんの少しだけだが律は腹が立った。

「……聞いてんのか、詩」

ふて腐れたような言い方をしながら、彼女の額を一撫でする。
すると、律が触れている彼女の手先がピクリと動いた気がした。
律はその手先に視線を向ける。
気のせいかとも思った。
しかし、再び彼女の指先が動く。

「詩……!詩!」

律は必死に声をかけながら、彼女の手を握り続けた。

「詩!俺だよ……律だ!頼む、戻ってきてくれよ!話したい事がいっぱいあるんだ……」

丸椅子を後ろに転がしてしまうほどの勢いで立ち上がる。
まるで彼の声に応えるかのように、詩の瞼(まぶた)がピクピクっと動く。
そして、ゆっくりと閉じていた目を開いた。

律は慌ててナースコールを押す。
すると、間もなくして看護士が駆けつけ、病室の異変に気付いた彼女の母も慌てて戻ってきた。