「痛ったぁ……」
頭に与えられた衝撃でさすがの詩も一度で目を覚ます。
後頭部をさすりながら後ろの席の律を睨みつけた。
「何すんのさ……」
「動かないから頭にハエがとまってた」
「嘘!毎日ちゃんと頭洗ってるし!昨日も良い香りがする新しいシャンプーで綺麗にしてきたんだから!」
詩は得意気にストレートのロングヘアを手でなびかせてみせる。
そのたびにシャンプーの良い香りが律の鼻腔を刺激した。
「シャンプーごときで詩のマイナスポイントが補えるものかよ」
律がフンと鼻で笑って言い返すと、詩はキーッとムキになって「バカ律!」と罵倒する。
寝坊癖、補習常連、女子力低下など様々なマイナスポイントが思い当たって、うまく律に言い返せなかった。
「バカはお前だ、平川。さっさと成績表を受け取りに来い」
担任の一言でクラス中がワッと笑いに包まれる。
「先生まで酷くない?」
詩は渋々成績表を受け取りに行く。
「ドンマイ、詩」
「負けんな、詩」
詩が歩くとそんな声が次々に寄せられた。
彼女はその愛嬌(あいきょう)でクラスの人気者だった。