詩が事故にあって一ヶ月が経つ。
彼女の意識はいまだ戻らないまま、時間だけが過ぎていった。
夏休みはとっくに終わり、九月も終わりにさしかかっている。
律は授業が終わると詩の様子を見に毎日市民病院に通った。

今日こそはあの明るい声で出迎えてくれるだろうと淡い期待だけ持って――…

「りっちゃん、今日も来てくれたのかい」

病室に入ると詩の母が出迎えてくれた。
娘の着替えが入った引き出しを整理しているところだ。

「夏休みも終わって学校もあるんだし、勉強も大変でしょう。無理しなくてもいいんだからね……?」

彼女は気遣わしげに律に言う。
最近は、病院で出会うたびに毎回同じ事を口にするようになった。

「無理なんてしてないから安心してよ。それより、詩の具合はどう?」

律は学校の鞄を病室の隅に置き、ベッドの傍にある丸椅子に腰を下ろした。

「今日は顔色が良さそうなのよ。暑さが少しやわらいできたからかしら」
「どれどれ……」

詩の母に言われて、律は眠る彼女の顔を覗き込んでみた。