気付けば夕暮れ時になっていた。
タバコ屋に残してきた子猫のことを思いながらぶらぶらとあてもなく歩いていたのだ。
いつしか歩くのにも疲れてしまい、公園のベンチでひとり物思いにふけていた。

「……律か?」

自分の名を呼ぶ声に、彼はゆっくりと力なく顔を上げる。
公園の入り口にはコンビニ袋を持った本宮が立っていた。

そういえば、彼のマンションはこのあたりだったと思い出す。
数年前に彼が引っ越しをする際、詩と一緒に手伝いに来たことがあった。
本宮は公園内に入ってくると、律の横に腰を下ろす。

「こんなところで何しているんだよ」
「鷹之さんこそ……買い物?」
「まぁな。さっき、詩のところに寄ってきた」
「そっか」

二人は教師と生徒ではなく、ただの知り合い同士としての会話をする。
詩の意識は戻っていなかったのだろう。
それ以上の話題も情報も無くて、二人はしばらく黙ったままだった。

「あの時さ……無理にでも詩と一緒に登校していたらこんなことにはならなかったのかな」

律は遠くを見てぼんやりとつぶやいた。