「おばさん、詩は絶対目を覚ますよ。俺がいつも起こしに行って、目を覚まさなかった事なんて一度も無いんだからさ。そのうち、目を覚まして“あと五分……”って瞼(まぶた)をこするはずだから……」

お気楽なモーニングコールと今の状況が全く違うことぐらい律にだって分かっている。
それでも、自分がモーニングコールをすれば彼女がそれに応えて目を開けてくれるのだと、律自身が信じたかったのだ。
彼の心からの言葉に詩の母は零れる涙を指先で拭いながら「そうね……」と答えた。

「俺が詩に毎日声をかけてちゃんと起こすからさ。おばさんは、俺にいつもの美味しいカフェオレをいれて待っててよ」

高校生の律にできることはそれくらい。
どんなに足掻(あが)いてみてもこれしかできないのならば、それを全力でするまでだ。
彼女を大事に想っている人の気休めになるならば。

「ありがとうね、りっちゃん……。じゃあ、ちょっと先生のところへ行ってくるわね」

詩の母は礼を言って、病室を空ける。

「詩……起きろよ。夏休み終わるぞ」

律はさっそくベッドの上の詩に声をかけた。
そして、彼女の頬にソッと口付けたのだった。