詩が運ばれた病室は三階にある個室だった。
ガラッと扉が開かれると、室内ではピッピッという機械音がわずかに響くだけ。
「詩……りっちゃんが来てくれたわよ」
詩の母親がベッドで横たわる声をかけるのだが、彼女からの返事は無い。
腕や頭に包帯が巻かれ痛々しい姿をしている幼なじみに律は恐る恐る近づいた。
「詩……?」
律も名を呼んでみるがやはり返事は無い。
詩の表情は律がいつも起こしに行った時の寝顔そのものだった。
包帯やガーゼがなければ眠っていると勘違いしてしまう。
律はおもむろに彼女の頬へ手を寄せた。
頬から指先へほんのりと温もりを感じられる。
生きている――…
そのことだけにとにかく安心した。
「……猫をね、助けようとしたんですって」
「猫……?」
「そう。郵便局前の道路で動けなくなってた子猫でね。詩らしいでしょ……?」
詩の母はクスクスと笑った。
笑っているのにうまく笑えていない。
娘と同じ十八歳の律に心配をかけまいと必死になっているのだ。