「どこに行くんだ!」
「どこって……詩のところに決まってんだろ!」
「まだHR中だろう。それに、まだどんな状況か分からないんだ。落ち着いて聞けって言ったろ……」
本宮は教師で大人だ。
動揺はしていても、取り乱したりしない。
大事な生徒で肉親が事故にあったと聞かされて落ち着いていられる事が、律にはどうしても理解できなかった。
「……離せよ」
律は心の底から唸(うな)るように訴える。
それでも、手を離さない本宮に「離せ!」と声を荒げてその手を振り切った。
自由を取り戻した律はすぐに廊下を駆けていく。
まるで糸の切れた風船だ。
自分が駆けつけたからと言って何ができるわけじゃないと頭ではしっかり理解しているつもりだった。
それでも、身体が勝手に動く。
詩のところへ行けと心が叫ぶ。
校舎を出て、駐輪場にとめていた自転車に乗って学校外へ飛び出していく。
市立病院は高校から数キロ先にある。
そこまで、中古で買ったママチャリで行こうだなんて無謀(むぼう)だといつもなら笑い飛ばすのだろう。
しかし、今の律はただ彼女に会いたい……その一心でペダルをこいでいた。