その浮かない顔に本宮は全てを悟ったようだった。

「律、落ち着いて聞けよ?」
「うん……」

神妙な面持ちをした目の前の教師に、律はゴクリと生唾(なまつば)をのむ。

「詩が事故にあった」

その言葉の中に本宮の動揺も見え隠れしている。
学校いる間の彼は詩の親戚ではなくて一人の教師だ。
詩の事も名字で呼んで、その立場をわきまえていた。その彼が公私混同しかけている。

「えっ……」

律は喉の奥に何かが引っかかってしまったように言葉が出ない。
“詩”と“事故”
この二つのワードだけが頭の中を無限ループしていく。

「市立病院に運ばれたって、さっき連絡が入ったんだ。容態のハッキリしたことはまだ分からなくて――…」

本宮が言うことも、途中から律の頭に入らなくなっていた。完全にキャパオーバー。
律はゆっくりと後ずさりしてクルッと方向転換すると、脱兎(だっと)のごとく廊下を走り出そうとした。
もちろん、本宮はそんな律を引き留める。